山口村長  細木喜作君

有馬郡山内村の内上山内村

 政治家の目的は狭まき意味にて云へば立法府の議員なれども廣き意味にて云ふ時は國を改善することは總て政治家の任務なり、然るに人稍もすれば謬見誤想に騙られて縣會議員代議士たらずんぼ政治家として國家を經綸する能はざるが如くに推思し、甚だしきに至りては抱負なく才能なく虚榮の爲に政治家に列せんとするもの甚だ多し、然れども國家の根底は自治體にあり、自治體にして健全なる發達を致さんか國家は期せずして興隆なるべく、自治體の制裁盛んなれば自から社會は改善せらるべし、往時土佐の義民村は某人の德望に依りて自治制裁が行はれ幕末に至るまで一人の罪人を出さず、偶々明治初年一人の罪人現はれ罰金刑を課せらる此時裁判官より罰金を納め謝罪せんことを申渡すや其罪人は村の名譽を傷けて相濟ずとて帰宅するを拒みたりと云ふ、之れを以て見るに自治體の制裁力が社會の改善に及ぼす力の如何に大なるかを知るべきなり、されば經世濟民の事業と云ふは必ずしも代議士となり或は大臣たらずとも一町村の首腦者たりとも自治體の長所を發揮する事に努めたらんには直に以て世の模範となり、陷々たる洪水大潮の如き風をも山中の一部落に依り堤防し其感化に依りて我帝國の元氣を維持するに足らん、果して然らんには其人の功は國務大臣にも譲らずと云ふべきなり、然るに近時政治家の風潮を見るに徒らに空理空論に流れ退ひて實行を圖らんとするものなく、されば自己の一身一家をば顧みず自治體の改善発達に腐心するもの稀れなるは慨嘆の至りなり、然るに此時細木喜作氏の如き自治體の趣味を解し土佐の義民村にも譲らざる治績を収め今や模範村長と稱せらる徳望才腦兼備の良村長を得た山口村こそ幸福なれ、以下氏が事蹟の一端を記すべし、

 氏は現有馬農林學校長細木喜兵衛氏の長子にて明治六年六月十五日現地に生る、同村小學校卒業するや明治十九年九月神戸乾行義塾に入り英漢數其他普通學を修め、二十一年九月東京同人社に轉じ二十四年四月より翌年六月迄群馬縣高山社に蠶業を研究し次て長野縣淺間地方に蠶業を修得し、二十五年より實業に従事す、三十一年山口村郷友會を創立し爾青年會教育に盡し補習夜學の任に當れり、三十九年六月上山口區長に擧げられ同時に山口村勸業獎勵委員となり四十一年上山口區長再選、同年十一月山口村長に當選、同時に在郷軍人會山口村支部長、山口村青年會長、同村學事會長、日本赤十字社及海員掖済會分區委員等を囑托せらる、四十二年二月武徳會評議員同年十一月忠勇顯彰會山口村委員を囑托せらる四十三年十一月在郷軍人會特別會員に推選せられ四十四年四月山口村農會長に擧げられ、四十五年七月有馬郡各宗聯合會名譽會員となり、大正元年十一月山口村長再選、翌二年三月辭任同年四月再三山口村長に當選以来今日に至れり、獪同年七月京都府外三縣下に於ける竹林及竹器状況視察の爲め郡長より出張を命ぜられ、大正四年八月神戸區裁判所管内戸籍事務協議會有馬郡支部幹事竝に明治神宮奉賛會山口村委員を囑托せられ、昨年十一月御大禮に際しては地方饗饌の榮を賜はり記念章を授興せられたり、以上公職に關し上山口村よりは區長在職中の功労に依り目録と感謝状を、亦海員掖濟會よりは同會務に盡力の廉に依り感謝状を、山口小學校新築寄附の廉に依り知事より木杯に賞状、赤十字社兵庫支部長より社産業盡力の廉に依り木杯に感謝状、有馬郡在郷軍人會長よりは支部業務盡力の廉に依り感状と記念品を贈輿せられ、尚本年二月教育事務に従事し成績優良なる廉に依り知事より表彰せられ蒔繪硯箱を賞興せられたり、尚此間氏は山口村戸主會、主婦會、處女會、自治懇談會、就學義會等を起して會長となり、圖書館、巡回文庫、教育獎勵基金蓄積規程功勞者表彰規程等を設け、又青年支會長研究會を開催し、社會教育の皷吹に腐心せる等、二六時中自治體の進展に留意せざるはなく、氏が初めて村長の職に就きたる當時は村税滞納者頗る多かりしが之れら滞納者に付ては納税は國民の義務にして忽せにすべからざることを懇諭し萬一吏員をして滞納處分を命ずる場合あれば前日潜かに税金を貸與して納付せしめ、亦赤貧者に對しては其半額を補助する等尚且つ其貸興金に對しても農業の手傳を以て控除する事とし毫も返金を迫らず、亦役場吏員に對しても一家内の扱ひを爲し克く同情と親切を以て之れを愛撫し、長者を敬し後進を誘掖し圓満を見地とせり、されば何れも其徳を欽慕し吏員は獻身的其職に殉し、村民は其恩恵に感激し近時村税滞納者は皆無となりたり斯かる有様にて自治政は洵に遺憾なく行はれ郡内の模範村と稱せらるゝに至れり、殊に氏は身を處する謹嚴にして、今や其徳望は村内のみに止まらず郡内に於ける模範人物として將た町村長中の重鎮として名聲赫々たるものあり、有馬農林學校長として將た農村の功労者として聲望郡内に溢れつゝある細木喜兵衛氏の男にして亦二宮尊徳先生を以て擬せらるゝ氏あり眞に故なきに非らざるなり、君年齒尚壯前途頗る深し益々獎勵以て國家の爲めに貢獻を祈る。

              『現代 有馬郡人物史 完』(古語)

西宮市山口町郷土資料館

西宮市山口町の歴史、伝統文化・産業、民俗資料を展示する郷土資料館です。 この地域で出土した七世紀の土器、645年大化の改新の立役者・孝徳天皇が当地に行幸されたことに関わる資料とその再現装束(着用体験もできます)、秋祭りで繰り出される檀尻(だんじり)の実物展示、伝統産業・竹細工を詳細に解説、等々に加え、昔の民具・農機具・教科書・写真などを展示するコーナーでは、実際に触って使ってみる体験もできます。

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